相続税は非課税でも申告不要とは限らない|ゼロでも申告が必要なケースを税理士資格を持つ弁護士が解説

「うちは相続税がかからないはずだから、申告もしなくていい」
そう思い込んでいませんか。

相続税が非課税、つまりかからないということと、申告そのものが不要ということは、実は同じではありません。財産の内容や使う特例次第では、税額が結果的に0円になる場合でも申告書の提出が必須になるケースもあります。この違いに気づかないまま放っておくと、後から思わぬペナルティにつながることもあります。

この記事では、次の内容を順を追ってわかりやすく解説します。

  • 基礎控除を使った申告要否の判断の仕方
  • 非課税・0円でも申告が必要になる例外ケース
  • 申告不要でも別途必要になる相続手続き

ご自身のケースがどちらに当てはまるか迷ったときは、早めに税理士や弁護士といった専門家に相談しましょう。

目次

相続税が「非課税」でも「申告不要」とは限らない

「相続税がかからない=申告しなくていい」というイメージを持っている方は少なくありません。しかし実際には、申告書を提出して初めて税額が非課税、つまり0円と認められる制度もあります。

相続税の申告要否を考えるときは、次の2つのパターンを区別しておく必要があります。

パターン内容
パターンAそもそも遺産総額が基礎控除額以下で、申告義務自体が発生しない
パターンB遺産総額は基礎控除額を超えているが、特例を使って申告した結果、税額が0円になる

この2つを混同すると、「非課税だから大丈夫」と思っていたのに実は申告義務があった、ということになりかねません。まずはこの前提を踏まえて、それぞれの判断基準を見ていきましょう。

相続税の申告が不要になる基本的な判断基準(パターンA)

相続税の申告要否をセルフチェックする第一歩は、「基礎控除額」の計算です。遺産総額がこの金額以下であれば、原則として申告義務は発生しません。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人の数基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円

出典:国税庁 No.4152「相続税の計算」 

たとえば法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人なら、基礎控除額は4,800万円です。遺産総額がこの金額以下であれば、申告は原則不要です。

また、法定相続人の数え方にも注意が必要です。実は、相続放棄をした人がいても、その人は「放棄していない」ものとして人数に数えます(相続税法15条2項)。たとえば、本来の相続人が3人で、そのうち1人が相続放棄をしても、基礎控除額の計算上は3人のままです。人数を1人少なく数えてしまうと、基礎控除額の計算がずれてしまうので注意しましょう。

一方で、養子は何人いても無制限に数えられるわけではありません。基礎控除額の計算に算入できる養子の数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までに限られます(相続税法15条2項1号・2号)。

遺産総額に含める財産の範囲に注意(みなし相続財産・生命保険金など)

基礎控除額と比較する「遺産総額」には、亡くなった方が生前に持っていた現金や不動産だけでなく、生命保険金や死亡退職金も含まれます。本来、亡くなった方が所有していた財産ではありませんが、相続税法上は「みなし相続財産」として遺産総額に加算されるためです。

ただし、生命保険金と死亡退職金には、それぞれ別枠で500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。先ほどの例(法定相続人3人)なら、生命保険金は1,500万円まで、死亡退職金も別に1,500万円まで非課税となり、この範囲内であれば遺産総額への加算を抑えられます。

出典:国税庁 No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」

相続財産の総額を正確に把握できているか確認する

現金や預貯金は把握しやすい一方で、次のような財産は見落とされがちです。

  • 不動産(評価額の確認が漏れているケースも多い)
  • 非上場株式
  • 複数の金融機関に分散した口座
  • 家族名義になっている実質的な故人の財産(名義預金)

「基礎控除以下のはず」と思い込む前に、財産の洗い出しに漏れがないか一度確認しておくことが大切です。

生前贈与を受けていた場合は加算額も遺産総額に含める

相続開始前の一定期間内に受けた生前贈与は、相続税の計算上、遺産総額に加算されます。特例の適用有無にかかわらず遺産総額の計算そのものに影響する点であり、この加算によって基礎控除額を超えてしまうケースもあります。

加算の対象になるかどうかは、法定相続人であるかどうかではなく、その人が相続や遺贈によって実際に財産を取得したかどうかで決まります。たとえば相続人ではない孫(代襲相続人を除く)や子の配偶者でも、遺贈を受けたり生命保険金の受取人になっていたりすれば、加算の対象になります。逆に、相続や遺贈で財産を一切取得していない人への生前贈与は、原則としてこの加算の対象外です。

この加算対象期間は税制改正で見直され、令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から、段階的に3年から7年へ延長されています。相続開始の時期によって、実際の加算期間は次のように変わります。

相続開始の時期生前贈与の加算期間
令和6年(2024年)〜令和8年(2026年)3年間(改正前と同じ)
令和9年(2027年)〜令和12年(2030年)段階的に延長
令和13年(2031年)以降7年間(完全適用)

延長された4年間、つまり相続開始前3年超7年以内に受けた贈与については、その期間の合計から100万円を差し引いた金額のみが加算される緩和措置もあります。

出典:国税庁 No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

ご自身の相続でどの時期の贈与がどこまで加算対象になるかは、相続が発生する時期によって細かく変わるため、正確に把握したい方は税理士や弁護士といった専門家に相談することをおすすめします。

また、生前贈与のうち「相続時精算課税制度」を選択している財産がある場合は、暦年贈与とは加算のルールが異なります。相続時精算課税を選んだ贈与財産は、贈与の時期にかかわらず全額が相続財産に加算されます(令和6年1月1日以後の贈与については、年110万円の基礎控除額を差し引いた後の金額)。

さらに、贈与時に納めた贈与税があり、それを相続税額から控除しきれない場合は還付を受けられますが、その還付を受けるには相続税の申告が必要です。まさに「税額が0円でも申告したほうがよい」典型的なケースですので、心当たりのある方は個別に確認しておきましょう。

相続税が非課税・0円でも申告が必要になる例外ケース(パターンB)

遺産総額が基礎控除額を超えていても、特例を使えば税額が0円になるケースがあります。

ただし、この場合は申告をして初めてその非課税扱いが認められます。ここが誤解されやすいポイントです。特例を使わずに済むなら申告は不要ですが、特例を使って税額をゼロにするのであれば、申告そのものが必須になります。

制度内容申告要否
配偶者の税額軽減配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからない適用には申告が必要
小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)自宅として使っていた土地のうち330㎡までの部分の評価額を80%減額できる適用には申告が必要

配偶者の税額軽減を使う場合

たとえば配偶者が取得した財産が1億6,000万円以下であれば、法定相続分にかかわらず配偶者にかかる相続税はゼロになります。非常に手厚い制度ですが、適用を受けるには相続税の申告書を提出することが要件です。

また、適用できるのは申告期限までに遺産分割が確定している財産に限られます。期限までに話し合いがまとまらない場合は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、後日分割が確定した時点で適用を受けられます。

出典:国税庁 No.4158「配偶者の税額の軽減」

小規模宅地等の特例を使う場合

評価額を大きく下げられる分、税額への影響も大きい特例ですが、こちらも配偶者の税額軽減と同様、適用を受けるには申告が必要です。

また、自宅の土地であれば誰が相続しても使えるわけではありません。特定居住用宅地等として適用を受けられるのは、配偶者、被相続人と同居していた親族、一定の要件を満たす別居親族(いわゆる家なき子)に限られます。

出典:国税庁 No.4124「小規模宅地等の特例」

「相続税は0円だから申告しなくていい」と自己判断する前に確認したいこと

ここまでの内容を踏まえても、自分のケースが本当に申告不要なのかを見極めるのは簡単ではありません。判断を誤りやすいポイントを、もう一段掘り下げておきましょう。

非上場株式・不動産など評価が難しい財産がある場合

上場株式や預貯金と違い、非上場株式や不動産は評価方法によって金額が変わります。「基礎控除以下だと思っていたら、実際に評価してみると超えていた」ということも起こり得ます。

評価が難しい財産をお持ちの場合は、早めに専門家に確認しておきましょう。

国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」を使う方法

国税庁のWebサイトには「相続税の申告要否判定コーナー」という無料の入力フォームが用意されています。

法定相続人の数や財産の内容を画面の案内に沿って入力すると、申告要否のおおよその目安がわかります。ただし、あくまで簡易的な判定ツールなので、正確な判断には専門家への相談がおすすめです。

申告不要と判断したまま放置した場合のリスク

「自分は申告不要のはず」と自己判断したまま何もせずにいると、次のようなリスクにつながることがあります。

  • 税務署から「相続についてのお尋ね」という書類が届くことがある。相続税がかかりそうだと見込まれる方に、相続財産の内容を確認するために送られるもので、対応を誤ると税務調査に発展する可能性がある
  • 申告・納税の期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)を過ぎて放置すると、本来の税額に加えて無申告加算税(税務調査の通知前に自ら申告すれば5%だが、調査後は納付すべき税額に応じて15%〜30%)や延滞税が課される
  • 相続財産そのものへの所得税の確定申告は原則不要だが、相続後に不動産を売却した場合の譲渡所得など、別途確定申告が必要になるケースもある

相続税の申告が不要でも、別途必要になる相続手続き

相続税の申告が不要だったとしても、それで相続にまつわる手続きがすべて終わるわけではありません。遺産分割協議、預貯金や不動産の名義変更、相続登記など、税務とは別に対応が必要な手続きが残っていることがほとんどです。

特に相続人が複数いる場合は、財産の分け方について意見が分かれることも少なくありません。この場合は税務の話とは別に、法的な整理や相続人間の交渉が必要になることもあります。

相続登記(2024年4月1日義務化)にも注意

相続税の申告が不要な場合でも、不動産を相続したときの相続登記は義務化の対象です。

2024年4月1日の法改正により、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられており、正当な理由なく期限内に申請しないと10万円以下の過料の対象になる可能性があります。

この義務は2024年4月1日より前に発生していた相続にも及びます。その場合の期限は、2027年3月31日と「不動産を相続したことを知った日から3年」のいずれか遅い日です。まだ相続登記を済ませていない不動産がある方は、早めに確認しておきましょう。

判断に迷ったら、税理士・弁護士どちらに相談すべき?

相続税の申告要否だけを確認したいなら税理士、相続人間の調整や遺産分割の進め方まで見据えたいなら弁護士に相談するのが一般的な目安です。ただし実際の相続では税務の問題と法律的な問題が同時に発生することも多く、どちらに相談すべきか迷う方も少なくありません。

当事務所(虎ノ門法律経済事務所 上野支店)には、税理士資格を持つ弁護士が在籍しています。相続税の申告要否の判定から、遺産分割・名義変更・相続登記といった相続手続き全般まで、ワンストップでご相談いただける体制を整えています。

よくある質問

Q1. 相続税が非課税でも申告は必要ですか?

配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額を0円にする場合は、申告をして初めて適用されるため申告が必要です。特例を使わずに遺産総額が基礎控除額以下となる場合は、原則として申告は不要です。

Q2. 遺産が3,000万円以下でも相続税の申告は必要ですか?

遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、原則として申告は不要です。基準額は法定相続人の数によって変わるため、まずはご自身の法定相続人の数を確認してみましょう。

Q3. 相続税がゼロでも申告不要でも要注意な場合は?

生前贈与の加算や特例の適用要件を満たしているかどうかなど、見落としがあると後から申告が必要だったと判明するケースがあります。判断に迷う場合は、早めに専門家にご相談ください。

Q4. 相続でもらったお金は確定申告が必要ですか?

相続財産そのものは相続税の対象であり、原則として所得税の確定申告は不要です。ただし、相続後に不動産を売却した場合の譲渡所得など、別途確定申告が必要になるケースもあります。また、亡くなった方に事業所得や不動産所得などがあった場合は、相続人が代わりに「準確定申告」を行う必要があります(相続の開始を知った日の翌日から4か月以内)。

まとめ

「相続税が非課税であること」と「申告が不要であること」は、必ずしもイコールではありません。基礎控除額以下でそもそも申告義務が発生しないケースもあれば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って結果的に税額が0円になるケースもあり、後者は申告して初めて非課税が認められます。

最後に、判断のポイントを振り返っておきましょう。

  • 遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下か確認する
  • 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うなら、税額が0円でも申告が必要
  • 生前贈与を受けていた場合は、加算額も遺産総額に含めて考える
  • 申告が不要でも、遺産分割協議や相続登記といった手続きは別途必要

少しでも判断に不安がある場合は、早めに専門家へ相談しておくことが、後々のトラブルやペナルティを防ぐことにつながります。

虎ノ門法律経済事務所 上野支店では、税理士資格を持つ弁護士が、相続税の申告要否の判定から相続手続き全般まで幅広くサポートしています。初回のご相談は無料ですので、「自分のケースはどうなるのだろう」と気になった方は、お気軽にご相談ください。

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