「相続した土地が、路線価の設定されていない道路に面している。」
相続手続きを進めるなかで、こうした状況に直面して戸惑う方は少なくありません。
実は、路線価地域内であっても、すべての道路に路線価が付いているわけではありません。行き止まりの私道や、宅地開発で新たにできた小道など、路線価のない道路は意外と多く存在します。
こうした土地の評価に使える仕組みが「特定路線価」です。本記事では、以下の内容を実務の視点を交えてわかりやすく解説します。
- 特定路線価の仕組みと、路線価が設定されていない道路の種類
- 特定路線価が設定される5つの条件
- 申請から通知までの具体的な手続きの流れ
- 申請前に必ず確認すべき「一度申請したら取り消せない」という注意点
- 特定路線価を申請しないほうが税額を抑えられるケースと、代替評価方法
特定路線価とは?
特定路線価とは、路線価が設定されていない道路に面する土地について、相続税や贈与税の申告にあたり、税務署長が個別に設定する路線価のことです。
そもそも路線価は、国税庁が毎年1月1日時点の地価を基に公表するもので、原則として「不特定多数の人が通行する道路」に設定されます。しかし、行き止まりの道路や、特定の住民だけが利用する私道などには路線価が付けられていません。
こうした道路にしか接していない土地を相続した場合に、「特定路線価設定申出書」を税務署に提出することで、その道路に対して個別の路線価を設定してもらえます。これが特定路線価の仕組みです。
路線価が設定されていない道路とは?
路線価は「不特定多数の者の通行の用に供されている道路」に設定されるのが原則です。裏を返せば、以下のような道路には路線価が設定されていないケースが多くあります。
- 行き止まりの私道(いわゆる袋小路)
- 特定の住民だけが利用する私有地内の通路
- 幅員が極端に狭い道路
- 市街化が進んでいない地域にある小道
路線価地域内であっても、こうした道路に「のみ」接している土地は通常の路線価方式では評価できないため、何らかの特別な対応が必要になります。
特定路線価が設定される5つの条件
特定路線価の設定を申し出るには、以下の5つの条件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けていると設定が認められませんので、事前にしっかり確認しておきましょう。
① 相続税または贈与税の申告のためであること
特定路線価は、あくまで相続税・贈与税の申告を目的とする場合にのみ設定されます。「将来の相続に備えて試算しておきたい」「売買価格の参考にしたい」といった理由では申請できません。実際の申告が前提となる点にご注意ください。
② 土地が路線価地域内にあること
路線価地域とは、路線価方式によって土地を評価する地域です。固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価する「倍率地域」に該当する土地は、そもそも路線価による評価を行わないため、特定路線価の対象にはなりません。
③ 路線価のない道路「のみ」に接していること
評価対象の土地が、路線価の設定されていない道路にしか接していない場合に限り、特定路線価の申請が認められます。たとえ一面でも路線価のある道路に接していれば、その路線価を用いて評価するため、特定路線価の設定は不要です。
④ 申請する道路が建築基準法上の道路であること
国税局が公表する「特定路線価設定申出書の提出チェックシート」では、対象の道路が建築基準法上の道路に該当することが求められています。該当しない場合は、特定路線価の付与が認められない可能性が高くなるため、接道義務を満たさない土地として『無道路地』としての評価、あるいは現況に応じた評価(旗竿地的な評価手法の準用など)を検討することになります。
⑤ 対象年分の路線価が公表済みであること
路線価は毎年7月初旬に公表されます。申告対象年分の路線価がまだ公表されていない段階では、特定路線価の申請はできません。公表時期を踏まえたスケジュール管理も大切です。
申請手続きの流れ【4ステップ】
特定路線価の申請は、次の4つのステップで進めます。
STEP 1|申出書と必要書類の準備
「特定路線価設定申出書」および「別紙(特定路線価により評価する土地等及び特定路線価を設定する道路の所在地、状況等の明細書)」を準備します。これらの様式は国税庁のホームページからダウンロード可能です。あわせて、物件案内図・地形図・現地写真などの資料も添付します。
STEP 2|税務署への提出
提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署(納税地の所轄税務署)です。持参でも郵送でも提出できます。
STEP 3|税務署からの回答受領(約1ヵ月)
申出書の提出から特定路線価の通知まで、おおむね1か月程度を要します。この間に、他の相続財産の評価や必要書類の準備を並行して進めておくのがおすすめです。
STEP 4|特定路線価を用いた土地評価
通知された特定路線価を使い、通常の路線価方式と同様に「路線価 × 奥行価格補正率 × 地積」の計算式で評価額を算出します。
特定路線価の通知には約1か月かかります。相続税の申告期限は相続開始から10か月ですので、余裕をもった早めの申出が重要です。期限直前になって慌てることのないよう、相続発生後すみやかに準備を始めましょう。
申請前に必ず知っておくべき注意点
特定路線価は便利な制度ですが、申請にあたっては慎重な判断が求められます。特に以下の2点は、申請前に必ず押さえておいてください。
一度申請すると、その評価額で申告しなければならない
特定路線価の設定を申し出ると、原則としてその評価額を使って申告する義務が生じます。「設定された金額が想定より高かったので、やはり別の方法で評価したい」という変更は認められません。後から評価額を比較して有利な方を選ぶことはできないのです。(特定路線価の設定に税務署の合理的な裁量からの逸脱等がある場合には、その取消等を求める法的手続が必要になります。)
特定路線価を申請すると、設定された路線価による評価額で申告しなければなりません。仮に別の評価方法のほうが低い評価額になったとしても、選択し直すことはできません。この点を十分に理解したうえで、申請の判断を行いましょう。
申請しないほうが税額を抑えられるケースがある
実務上、特定路線価制度を用いない方が相続税評価額を低く抑えられるケースもあります。代表的な方法として、次の2つがあります。
- 旗竿地(路地状敷地)評価
路線価のない道路と評価対象地を一体の敷地とみなし、「旗竿地(旗と竿のような形状の土地)」として評価する方法です。近隣の路線価をもとに不整形地補正を加えるため、特定路線価を設定するよりも評価額が下がることが多いとされています。ただし、評価額と時価の乖離が大きすぎると税務署から否認されるリスクもあるため、専門家の判断が必要です。
- 無道路地評価
評価対象の土地が有効な道路に接していないとみなされる場合に適用される方法です。この場合は特定路線価が設定されないことが多いと思われますが、隣接地を含めた一体評価から通路開設費用を控除するなど、計算が複雑になります。こちらも税理士など専門家のサポートのもとで検討されることをおすすめします。
特定路線価を申請する前に、旗竿地評価や無道路地評価といった代替方法でシミュレーションを行い、どちらが相続税負担を抑えられるかを比較しておくことが大切です。評価方法によって、税額に大きく差が出ることもあります。もっとも、適正な評価を行うことが最も重要であり、評価が下がるからといって無理に旗竿地で評価したりすることはできません。
よくある質問(FAQ)
Q. 特定路線価の申請は必ず行わなければなりませんか?
A. 特定路線価の申請はあくまで「できる規定」であり、申請するかどうかは納税者の判断に委ねられています。とはいえ、前述の旗竿地評価や無道路地評価もできない場合(建築基準法上の道路に接道しているものの路線価がついていない場合)は、申請は必須だと考えた方がよいです。特定路線価を申請せずに代替方法で評価した場合であっても、その評価額が実態とかけ離れていれば税務署から指摘を受ける可能性はあります。判断に迷われたら、相続税に詳しい専門家にご相談ください。
Q. 特定路線価はいくらぐらいに設定されますか?
A. 具体的な金額は、申請してみるまでわかりません。税務署が現地の状況や周辺路線価などを総合的に考慮し、個別に評定します。大まかな見通しをもっておきたいという場合は、近隣の相続税路線価と大きく異なることは稀ですので、近隣と概ね同じくらいと見積もっておけばよいでしょう。
Q. 相続人以外でも申請できますか?
A. 申出者は原則として相続人(納税義務者)ですが、税理士等の専門家が代理で申請することもできます。実務上は、税理士が代理申請するケースがほとんどです。
Q. 申請が却下されることはありますか?
A. あります。たとえば、道路の幅員が極端に狭い場合や、実質的に特定の者だけが使用する私有地である場合などは、申請が認められないことがあります。その場合は、旗竿地評価や無道路地評価などの代替方法を検討します。
まとめ
特定路線価は、路線価地域にありながら路線価が設定されていない道路に面した土地を評価するための仕組みです。税務署に申請することで個別の路線価を設定してもらえますが、一度申請すると原則として取り消しができません。
申請前には、旗竿地評価や無道路地評価といった代替方法とのシミュレーション比較を行い、どちらがご自身にとって有利かを慎重に検討しましょう。評価方法の違いによって、相続税額は大きく変わります。
「特定路線価を申請すべきか迷っている」「土地の評価方法を比較検討したい」そんなときは、ぜひお気軽にご相談ください。当事務所は、税理士・弁護士ダブルライセンスで、税務申告から遺産分割までトータルでサポートいたします。
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